ヨード(ヨウ素)
元素記号「I」、原子番号53の物質で、日本の資源量は世界トップクラス。2020年の世界産出量は約3万tで、1位のチリ約2万tに次いで 2位の日本は約9000tを産出。つまり両国で世界市場の約97%を牛耳る超寡占ぶり。また、世界の埋蔵量は推定620万tで日本はこのうちの実に約490万t、8割を占める圧倒的1位。しかもその大半を千葉1県で産出するというから驚きで、その規模は世界シェアの25%を握る。
東京湾や房総半島中央部の地下には「南関東ガス田」が広がり、ここに膨大な鹹水(かんすい:塩分濃度の高い塩水)が蓄積、メタンを主成分にした天然性ガスが溶け込む。天然ガスを採掘する際に副産物として産出されるのがヨード。東京には茶褐色の温泉が自慢の銭湯がいくつかあるが、まさにこれがヨードを豊富に含んだ南関東ガス田の恩恵そのもの。
ヨード自体は海水にごく少量含まれる物質で、約240万年前に天然ガスの素となる有機物とヨードを多量に含んだ海底の土砂が混じり合いながら堆積し濃縮されたのではと推定されるが詳細はわかっていない。だがかんすい中のヨード濃度は海水の2000倍にも達し、これほど蓄積したヨード鉱脈は世界的にも非常に珍しい。
ヨードはレントゲンの造影剤として重宝されているほか、消毒液 (ヨードチンキ)・うがい薬(イソジンなど)や防カビ剤、液晶パネルの偏光フィルム、飼料、酢酸製造用の工業触媒など用途は広い。
また、放射線の被ばく防止剤としても特に重要で、原子力災害時に大気中に噴出される放射性ガス内に含まれる放射性ヨウ素は甲状腺に溜まりやすく体内被ばくによる甲状腺がんの危険性があり、放射性ヨウ素の蓄積を防ぐために安定ヨウ素剤の服用が有望とされる。 東日本大震災のときも同剤が一躍注目を集め、海外からも問い合わせが殺到したという。ある種の“戦略物資”でもある。